女性のエンパワーメントと男性のバックラッシュ

女性の経済的エンパワーメントを促進する政策や制度は、親密なパートナーによる暴力(IPV)に長期的な影響を与えるのか。本研究では、この問いに対し、カメルーンにおける歴史的な自然実験を利用して検証する。第一次世界大戦後から1961年まで、現在のカメルーン西部地域はフランスとイギリスの間で恣意的に分割され、それぞれの植民地政策によって、同じ文化的・地理的背景を持つ地域で女性の経済的機会が大きく異なる形で発展した。

イギリス領では、普遍的な教育制度が導入され、女性に有償労働の機会が提供された。一方、フランスの植民地政策では、少数の行政エリートを育成し、男性雇用が中心のインフラ部門に投資が集中した。本研究では、地理的回帰不連続デザイン(RDD)を用いて分析を行い、その結果、かつてのイギリス領に住む女性は、フランス領だった地域の女性と比較して36%高い確率で家庭内暴力の被害者となっていることが明らかになった。

この持続的な影響をもたらす可能性のある多くの要因を検討した結果、統計的に有意で定量的に重要な要因は一つだけであった。すなわち、かつてのイギリス領に住む女性は、フランス領だった地域の女性と比較して37%高い確率で有償労働に従事していた。さらに、イギリス領だった地域の家庭内暴力の発生率が一様に高いわけではなく、この不連続性は、有償労働に従事し、その雇用に対してパートナーが反対している女性にほぼ限定されることが示された。

これらの結果は、家庭内暴力を組み込んだ世帯交渉モデルとは整合せず、むしろ男性のバックラッシュ理論によって説明可能であることを示唆している。